スパコンとは、スーパーコンピューターの略称で、高速に大量の計算を行うことができるコンピューターのことです。
スパコンは、科学技術や産業など様々な分野で活用されており、人類の課題解決に貢献しています。
しかし、スパコンの価格は一般的なパソコンとは比べ物にならないほど高額です。
では、スパコンの価格はどのくらいなのでしょうか?
この記事では、スパコンの価格について初心者にも分かりやすく解説します。
1.スパコンの価格はどう決まるのか?
スパコンの価格は、その性能や規模、運用コストなどによって大きく異なります。
ここでは、スパコンの価格に影響する要因を分かりやすく解説します。
①性能や規模による違い
スパコンの性能は、一般的に浮動小数点演算の処理能力を表すFLOPS(フロップス)という単位で測定されます。FLOPSは、1秒あたりに実行できる浮動小数点演算の回数を表します。
例えば、1TFLOPS(テラフロップス)は1兆回、1PFLOPS(ペタフロップス)は1京回の浮動小数点演算ができることを意味します。
スパコンの規模は、その構成するプロセッサやメモリの数や種類、ネットワークの構造などによって決まります。
スパコンは、一般的に複数のプロセッサを並列化して計算能力を高める並列計算機として設計されます。
プロセッサは、ベクトル型やスカラー型などの種類があります。
ベクトル型は、一度に複数のデータを処理できる特殊なプロセッサで、高い計算性能を持ちますが、高価で大きくて消費電力も多いです。
スカラー型は、一度に一つのデータを処理する一般的なプロセッサで、安価で小さくて省エネですが、単体では計算性能が低いです。
メモリは、プロセッサが計算に必要なデータを一時的に保存する場所です。メモリの容量や速度が大きいほど、計算効率が高まりますが、コストも上昇します。
ネットワークは、プロセッサやメモリ同士をつなぐ通信路です。ネットワークの帯域幅や遅延が小さいほど、並列計算の性能が向上しますが、配線や冷却などの工夫も必要です。
一般的には、性能や規模が大きいほどスパコンの価格も高くなります。
しかし、性能や規模だけではスパコンの価格を決めることはできません。
それは、スパコンの運用コストによっても影響されるからです。
②運用コストによる違い
スパコンの運用コストとは、スパコンを購入した後に発生する維持管理費用のことです。
運用コストには、電気代や冷却費用、保守費用や人件費などが含まれます。
運用コストは、スパコンの性能や規模だけでなく、設置場所や利用方法などにも依存します。
電気代や冷却費用は、スパコンが消費する電力量に比例して増加します。
消費電力量は、プロセッサやメモリの種類や数、ネットワークの構造などによって変わります。
例えば、ベクトル型のプロセッサはスカラー型のプロセッサよりも高い計算性能を持ちますが、同じ計算をするときにはスカラー型のプロセッサよりも多くの電力を消費します。
また、ネットワークの帯域幅や遅延が小さいほど、並列計算の性能が向上しますが、同時に電力消費も増加します。
電力消費が増えると、発熱も増えるため、冷却装置も必要になります。
冷却装置は、空気冷却や水冷却などの方法がありますが、どちらも電力を必要とします。
したがって、電気代や冷却費用は、スパコンの性能や規模に応じて大きく変動します。
保守費用や人件費は、スパコンの故障や障害に対応するために必要な費用です。
保守費用は、スパコンのメーカーや販売業者との契約内容によって異なりますが、一般的にはスパコンの価格の数パーセントから数十パーセント程度が目安です。
人件費は、スパコンを運用するために必要な人員の給与や教育費用です。
スパコンを運用するためには、専門的な知識や技術を持った人材が必要ですが、その人材は市場で不足しているため、高いコストがかかります。
運用コストは、スパコンの価格と同じくらい重要な要素です。運用コストが高いと、スパコンの利用効率や経済性が低下します。
そのため、スパコンを購入する際には、運用コストを考慮してトータルコストを見積もることが必要です。
2.スパコンの価格帯はどれくらいか?
スパコンの価格は一般的なパソコンとは比べ物にならないほど高額です。
では、スパコンの価格帯はどのくらいなのでしょうか?
ここでは、スパコンの価格帯を超小型、中型、大型の3つに分けて解説します。
①超小型スパコン
超小型スパコンとは、一般的なサーバーと同じサイズの筐体に収まるような小規模なスパコンです。
性能はそれほど高くありませんが、低価格で導入できるというメリットがあります。
超小型スパコンの例としては、NECが発売した「SX-Aurora TSUBASA」や富士通が発売した「PRIMEHPC FX10」があります。
超小型スパコンの価格帯は、約5000万円から1000万円程度です。
SX-Aurora TSUBASA
SX-Aurora TSUBASAは、NECが開発したベクトル型プロセッサ「Vector Engine」(VE)を搭載した超小型スパコンです。
VEは、一度に複数のデータを処理できる特殊なプロセッサで、高い計算性能を持ちますが、高価で大きくて消費電力も多いです。
しかし、NECはVEを単体で販売することで、低価格で導入できるようにしました。
VE単体では価格が114万4000円(税別)となっています。
VEを搭載したタワー型サーバも販売しており、その場合は約5000万円から3000万円程度です。
PRIMEHPC FX10
PRIMEHPC FX10は、富士通が開発したスカラー型プロセッサ「SPARC64 IXfx」を搭載した超小型スパコンです。
SPARC64 IXfxは、一度に一つのデータを処理する一般的なプロセッサで、安価で小さくて省エネですが、単体では計算性能が低いです。
しかし、富士通はSPARC64 IXfxを16個集積したボードを作り、それを最大16台まで接続することで計算性能を向上させました。
PRIMEHPC FX10の価格帯は約1000万円から5000万円程度です。
②中型スパコン
中型スパコンとは、数十台から数百台のノードを接続して構成される規模のスパコンです。
性能は超小型スパコンよりも高く、科学技術や産業など様々な分野で活用されています。
中型スパコンの例としては、日立製作所が発売した「SR16000」や富士通が発売した「PRIMEHPC FX100」があります。
中型スパコンの価格帯は、約10億円から100億円程度です。
SR16000
SR16000は、日立製作所が開発したスカラー型プロセッサ「POWER7」を搭載した中型スパコンです。
POWER7は、IBMが開発した高性能なプロセッサで、8コアから32コアまでのバリエーションがあります。
日立製作所は、POWER7を最大1024個まで接続することで計算性能を高めました。
SR16000の価格帯は約10億円から50億円程度です。
PRIMEHPC FX100
PRIMEHPC FX100は、富士通が開発したスカラー型プロセッサ「SPARC64 XIfx」を搭載した中型スパコンです。
SPARC64 XIfxは、富士通が独自に開発した高性能なプロセッサで、32コアと512GBのメモリを持ちます。
富士通は、SPARC64 XIfxを最大1536個まで接続することで計算性能を高めました。
PRIMEHPC FX100の価格帯は約50億円から100億円程度です。
③大型スパコン
大型スパコンとは、数千台から数万台のノードを接続して構成される規模のスパコンです。
性能は中型スパコンよりも高く、世界最高水準の計算能力を持ちます。
大型スパコンは国家プロジェクトや国際競争力の象徴として開発されることが多く、日本では「京」や「富岳」が有名です。
大型スパコンの価格帯は、約1000億円から10000億円程度です。
①京
京は、理化学研究所が運用する大型スパコンです。
京は、富士通が開発したスカラー型プロセッサ「SPARC64 VIIIfx」を搭載しており、82,944個のノードを接続しています。
京の計算性能は10.51PFLOPSで、2011年に世界最速のスパコンになりました。
京の価格帯は約1100億円です。
②富岳
富岳は、理化学研究所が運用する大型スパコンです。
富岳は、富士通が開発したARMベースのプロセッサ「A64FX」を搭載しており、158,976個のノードを接続しています。
富岳の計算性能は442PFLOPSで、2020年に世界最速のスパコンになりました。富岳の価格帯は約1300億円です。
3.スパコン導入のメリットとコスト効果
スパコンの導入には高額な費用がかかります。
では、スパコン導入のメリットとコスト効果はどのように評価できるのでしょうか?
ここでは、スパコン導入の利点とリターンについて分かりやすく解説します。
①スパコンの利点
スパコンの利点は、その計算能力を活かして様々な問題を解決したり、新たな可能性を創出したりすることです。
スパコンは、科学、研究、産業界で多くの利用事例があります。以下にいくつかの例を紹介します。
科学、研究、産業界での利用事例
- 気候変動:スパコンは、気候モデルを使って地球温暖化や自然災害の予測や対策を行うことができます。例えば、日本では「京」や「富岳」 という大型スパコンを使って気候変動に関する研究を行っています。気候変動は人類にとって重大な課題ですが、スパコンはその解決に貢献しています。
- 新型ウイルス:スパコンは、新型ウイルスの感染拡大やワクチン開発にも役立ちます。例えば、米国では「サミット」という大型スパコンを使って新型コロナウイルスの感染力や治療法を探る研究を行っています。新型ウイルスは人類の健康にとって深刻な脅威ですが、スパコンはその対策に貢献しています。
- 新素材:スパコンは、新しい物質や材料の開発にも重要な役割を果たします。例えば、中国では「神威・太湖之光」という大型スパコンを使って高温超伝導材料の設計や最適化を行っています。高温超伝導材料は電力伝送や医療機器などに応用できる画期的な素材ですが、スパコンはその開発に貢献しています。
- 宇宙:スパコンは、宇宙の起源や進化に関する謎を解くためにも使われます。例えば、欧州では「PRACE」という共同計算基盤を使って宇宙論や天文学のシミュレーションを行っています。宇宙は人類にとって最大のフロンティアですが、スパコンはその探求に貢献しています。
②コスト効果とリターン
スパコン導入の利点は多くありますが、その一方でコストも高くなります。
スパコン導入には、購入費用だけでなく、運用費用や保守費用などもかかります。
スパコン導入のコスト効果とリターンはどのように評価できるのでしょうか?
スパコン導入による組織の競争力向上
スパコン導入によって得られるリターンの一つは、組織の競争力向上です。スパコンは、組織の業務や研究において優位性や差別化を生み出すことができます。
例えば、スパコンを使って製品やサービスの品質や性能を向上させたり、開発期間やコストを削減したりすることができます。
また、スパコンを使って新しい市場やニーズに対応したり、新しいビジネスモデルや価値提案を作り出したりすることができます。
スパコンは、組織の収益や利益を増加させることができます。
投資対効果の評価と将来の成果
スパコン導入によって得られるリターンのもう一つは、投資対効果の評価と将来の成果です。
スパコン導入にかかる費用は高額ですが、その費用に見合うだけの効果があるかどうかを評価することが重要です。
そのためには、スパコン導入の目的や目標を明確にし、それに基づいて定量的かつ定性的な指標を設定し、定期的に測定し、分析し、改善することが必要です。
例えば、スパコン導入によって計算時間や精度がどれだけ改善されたか、業務や研究の効率や品質がどれだけ向上したか、市場シェアや収益がどれだけ増加したかなどを測定することができます。
また、スパコン導入によって将来的に得られる成果も見込むことが必要です。
例えば、スパコン導入によって新たな知見や技術を生み出したり、社会的な貢献や影響力を高めたりすることができます。スパコンは、未来に向けての投資として見ることができます。
4.スパコン購入の際の考慮事項
スパコンの購入には高額な費用がかかりますし、運用や保守も簡単ではありません。
では、スパコン購入の際にはどのようなことを考慮すべきでしょうか?
ここでは、スパコン購入の際の考慮事項をニーズの明確化、予算の設定と調達方法、サポートとメンテナンスの3つに分けて解説します。
①ニーズの明確化
スパコン購入の際には、まず自分のニーズを明確にすることが重要です。
ニーズとは、スパコンを使って何をしたいか、どんな問題を解決したいか、どんな目的を達成したいかということです。
ニーズに応じて、必要な演算能力やアプリケーションや用途が異なります。
例えば、気候変動や新型ウイルスの予測や対策を行う場合は、高い演算能力や複雑なシミュレーションができるアプリケーションや用途が必要です。
一方、新素材や新薬の開発を行う場合は、高い精度や詳細な分析ができるアプリケーションや用途が必要です。
また、宇宙や生命の謎を解く場合は、高い創造性や発想力ができるアプリケーションや用途が必要です。
ニーズを明確にすることで、自分に合ったスパコンを選ぶことができます。
スパコンは、性能や規模や価格によって様々な種類があります。
例えば、超小型スパコンは低価格で導入できますが、性能はそれほど高くありません。
中型スパコンは性能は高くても価格も高くなります。
大型スパコンは性能は最高ですが価格も最高です。
また、ベクトル型やスカラー型などプロセッサの種類によっても計算能力や消費電力などが異なります。
自分のニーズに応じて、最適なスパコンを選ぶことができます。
②予算の設定と調達方法
スパコン購入の際には、予算の設定と調達方法も考慮する必要があります。
予算とは、スパコンに対してどれだけの費用をかけることができるかということです。
予算に応じて、購入できるスパコンの種類や性能や規模が制限されます。
予算を設定する際には、以下のような方法があります。
- 目標設定法:目標設定法とは、自分の目的や目標に合わせて必要なスパコンの性能や規模を決め、そのスパコンの価格を予算とする方法です。この方法は、自分のニーズに最適なスパコンを購入できるというメリットがありますが、予算が高額になるというデメリットがあります。
- 予算制約法:予算制約法とは、自分がかけられる費用の上限を決め、その予算内で最も性能や規模の高いスパコンを購入する方法です。この方法は、予算を節約できるというメリットがありますが、自分のニーズに合わないスパコンを購入する可能性があるというデメリットがあります。
- コスト効果分析法:コスト効果分析法とは、スパコン導入によって得られる効果とかかる費用を比較し、最も効果の高いスパコンを購入する方法です。この方法は、スパコン導入の投資対効果を評価できるというメリットがありますが、効果や費用を定量化することが難しいというデメリットがあります。
予算を設定した後には、調達方法も考慮する必要があります。調達方法とは、スパコンをどのように手に入れるかということです。調達方法には、以下のような方法があります。
- 購入:購入とは、スパコンを一括で支払って所有する方法です。この方法は、自由にカスタマイズや拡張ができるというメリットがありますが、初期費用や運用費用や保守費用が高くなるというデメリットがあります。
- リース:リースとは、スパコンを一定期間借りて使用する方法です。この方法は、初期費用や運用費用や保守費用が低く抑えられるというメリットがありますが、カスタマイズや拡張ができないというデメリットがあります。
- クラウド利用:クラウド利用とは、インターネット経由でスパコンのサービスを利用する方法です。この方法は、必要な時に必要な分だけ利用できるというメリットがありますが、セキュリティやネットワークの問題があるというデメリットがあります。
③サポートとメンテナンス
スパコン購入の際には、サポートとメンテナンスも考慮する必要があります。
サポートとは、スパコンのハードウェアやソフトウェアに関する問題やトラブルに対応してくれるサービスのことです。
メンテナンスとは、スパコンのハードウェアやソフトウェアを定期的に点検や修理や更新してくれるサービスのことです。
サポートとメンテナンスは、スパコンの性能や安定性や信頼性を維持するために重要です。
サポートとメンテナンスには、以下のような種類があります。
- 自己サポート・自己メンテナンス:自己サポート・自己メンテナンスとは、自分で問題やトラブルを解決したり、スパコンの状態をチェックしたり、パーツを交換したり、ソフトウェアを更新したりすることです。この方法は、サポートやメンテナンスの費用を節約できるというメリットがありますが、専門的な知識や技術が必要であるというデメリットがあります。また、自己責任で行うことになるため、万が一失敗した場合には保証や補償が受けられない可能性があります。
- メーカーサポート・メーカーメンテナンス:メーカーサポート・メーカーメンテナンスとは、スパコンのメーカーに問題やトラブルを報告したり、スパコンの状態を診断してもらったり、パーツを修理や交換してもらったり、ソフトウェアを最新版にしてもらったりすることです。この方法は、専門的なサービスを受けられるというメリットがありますが、サポートやメンテナンスの費用が高くなるというデメリットがあります。また、契約内容や期間によってはサービスの範囲や品質が制限される可能性があります。
- 外部サポート・外部メンテナンス:外部サポート・外部メンテナンスとは、スパコンのメーカー以外の第三者に問題やトラブルを依頼したり、スパコンの状態を管理してもらったり、パーツを修理や交換してもらったり、ソフトウェアをカスタマイズしてもらったりすることです。この方法は、自分のニーズに合わせて柔軟にサービスを選べるというメリットがありますが、信頼性や安全性が低いというデメリットがあります。また、契約内容や期間によってはサービスの費用や品質が変動する可能性があります。
おわりに
スパコンの価格は、その性能や規模によって大きく異なります。
一般的には、計算速度やメモリ容量、ノード数などが高ければ高いほど、価格も高くなります。
また、スパコンを運用するために必要な電力や冷却システム、保守サービスなどもコストに含まれます。
スパコンの価格帯は、超小型スパコンが約5000万円から1000万円程度、中型スパコンが約10億円から100億円程度、大型スパコンが約1000億円から10000億円程度となっています。
スパコンは高価なものですが、その分人類の課題解決に貢献しています。スパコンに興味がある方は、ぜひ自分の目的や予算に合ったスパコンを探してみてください。