食は私たちの生活に欠かせないものですが、食に関するさまざまな課題も存在します。例えば、食品ロスや食の安全性、栄養バランスや食習慣の多様化などです。これらの課題に対応するために、IT技術やデータ分析を活用して、食の生産から消費までのサプライチェーンを最適化し、新たな価値を生み出す取り組みが注目されています。それが「スマートフード」と呼ばれる革新です。この記事では、スマートフードについてわかりやすく解説します。
1.スマートフードとは何か？
①スマートフードの定義
スマートフードとは、食に関する幅広い知識を積極的に高めることで、美容や健康のために賢く食べることを意味します。スマートフードは、単にカロリーや栄養素を計算するだけではなく、食品の品質や安全性、環境への影響、社会的な価値なども考慮して選択することが重要です。スマートフードは、自分の体やライフスタイルに合った食事を作るだけでなく、食べ方や食事の時間も工夫することで、食の楽しみや満足感を高めることも目指します。
②スマートフードのメリット
スマートフードには、以下のようなメリットがあります。
- 健康的な体重や体脂肪率を維持することができます。スマートフードでは、自分のエネルギー消費量や活動量に応じて、適切なカロリー摂取量を把握することができます。また、バランスの良い栄養素の摂取によって、代謝や免疫力を高めることができます。
- 慢性病や生活習慣病の予防や改善に効果的です。スマートフードでは、糖質や脂質、塩分などの摂りすぎに注意し、ビタミンやミネラル、食物繊維などの不足しがちな栄養素を補うことができます。また、抗酸化物質やプロバイオティクスなどの機能性成分を含む食品を選ぶことで、細胞や内臓の老化や損傷を防ぐことができます。
- 美容効果も期待できます。スマートフードでは、肌や髪、爪などの健康に必要なコラーゲンやケラチンなどのタンパク質を十分に摂取することができます。また、水分や油分のバランスを整えるために、水分補給やオメガ3脂肪酸などの良質な油を摂取することも大切です。
③スマートフードの種類
スマートフードには、以下のような種類があります。
- 完全栄養食：1食分で必要な栄養素をすべて摂取できる食品です。パウダーやドリンク、バーなど様々な形態があります。手軽に準備できてコスパも良いため、忙しい人やダイエット中の人におすすめです。
- スーパーフード：特に高い栄養価や機能性を持つ食品です。チアシードやクルミ、アサイーなどが有名です。少量でも満足感が得られるため、カロリー制限にも役立ちます。
- スマートフードチェーン：農産物を中心に、生産、加工、流通という供給側の視点に加え、消費側からの視点と資源循環や研究開発など食のサプライチェーンにおける「動脈」と「静脈」を循環化した連関モデルです。データ連携を可能とすることで、食品の品質や安全性、環境への影響、社会的な価値などを可視化し、消費者の選択や生産者の改善につなげることができます。
2.スマートフードの事例
ここでは、スマートフードの具体的な事例を紹介します。
①スマートファーム
スマートファームとは、農場や畑で、ロボットやAIやIoTなどの先端技術を使って、農作業の自動化や最適化を行う農業のことです。スマートファームでは、センサーやカメラなどで収集したデータをクラウドに送り、AIが解析して栽培管理の指示を出したり、ロボットが作物の収穫や選別や箱詰めなどを行ったりします。スマートファームは、人手不足や高齢化などによる農業の労働力確保の問題や、品質や収量の向上などに貢献します。
スマートファームの事例としては、以下のようなものがあります。
- 日本のヤンマーは、無人自動走行トラクターを開発しました。このトラクターは、GPSやカメラなどで周囲の状況を認識し、自動で耕す・播種する・除草するなどの作業を行います。また、スマートフォンやタブレットから操作したり、複数台を連携させたりすることもできます。
- オランダのスプレッドは、AIとロボットによる完全自動化植物工場を運営しています。この植物工場では、レタスなどの葉物野菜をLED照明や水耕栽培で育てます。AIが温度や湿度などの環境条件を最適化し、ロボットが種まきから収穫まで全ての作業を行います。この植物工場では、年間30万個以上のレタスを生産しています。
- アメリカのファームボットは、小型の農業ロボットを開発しました。このロボットは、太陽光で動きます。カメラやセンサーで土壌や作物の状態を測定し、AIが判断して水やりや除草などの作業を行います。また、クラウドにデータを送り、ユーザーがスマートフォンから確認したり操作したりすることもできます。
ICTやAIを使った農業管理システム
ICTやAIを使った農業管理システムとは、農場や畑で収集したデータを基にして、栽培計画や作業指示などを出すシステムのことです。ICTやAIを使った農業管理システムでは、気象情報や土壌情報などをリアルタイムに分析し、最適な栽培方法や収穫時期などを提案します。ICTやAIを使った農業管理システムは、作物の品質や収量の向上や、作業の効率化や省力化などに貢献します。
ICTやAIを使った農業管理システムの事例としては、以下のようなものがあります。
- 日本のクボタは、スマート農業システム「クボタスマートアグリシステム（KSAS）」を提供しています。このシステムでは、農場に設置したセンサーやカメラなどで収集したデータをクラウドに送り、AIが解析して栽培計画や作業指示などを出します。また、農業機械やスマートフォンと連携して、作業の自動化や記録化なども行います。
- イスラエルのプロスペラは、AIと画像解析による農業管理システムを提供しています。このシステムでは、ドローンやカメラなどで撮影した画像をAIが解析し、作物の成長状況や病害虫の有無などを判定します。また、気象情報や土壌情報なども考慮して、水やりや肥料や農薬の最適な量やタイミングなどを提案します。
- フランスのウィーファームは、AIとブロックチェーンによる農業管理システムを提供しています。このシステムでは、センサーやカメラなどで収集したデータをAIが解析し、栽培計画や作業指示などを出します。また、ブロックチェーンを使って、作物の生産履歴や品質情報などを記録し、消費者に透明性と信頼性を提供します。
バーチャルリアリティやドローンを使った農業体験
バーチャルリアリティ（VR）やドローンを使った農業体験とは、仮想空間で農場や畑を見学したり、農作業を体験したりすることです。VRやドローンを使った農業体験では、VRゴーグルやコントローラーなどを使って、リアルな映像や音声や触覚などで農業の魅力や楽しさを感じることができます。VRやドローンを使った農業体験は、農業教育や食育や観光などに活用されています。
VRやドローンを使った農業体験の事例としては、以下のようなものがあります。
- オーストラリアのファームVRは、VRで農場や畑を見学したり、トラクターやジャガイモ収穫機などの農業機械を操作したりすることができるコンテンツを提供しています。このコンテンツは、農業研修や子供向けの食育などに活用されています。
- 日本の農林水産省は、VRで農作業時に起こりうる事故を体験することができるコンテンツを公開しています。このコンテンツは、事故防止のために危険性や恐怖感を感じさせることで、農業従事者の安全意識を高めることを目的としています。例えば、トラクターの転倒や車輪に巻き込まれるなどのシミュレーションをVRで体験することができます。
- ドイツのフラウンホーファー研究所は、VRで農場や畑を見学したり、農作業を体験したりするコンテンツを開発しています。このコンテンツは、農業に興味や関心を持つ人や、農業教育や研修に参加する人に向けて提供されています。VRで農場や畑の様子を見たり、作物の種類や成長過程を学んだり、収穫や加工などの作業を体験したりすることができます。
②スマートキッチン
スマートキッチンとは、キッチンの機器や調理器具がインターネットやクラウドなどに接続されて、調理の効率化やサポートを行うシステムです。スマートキッチンでは、以下のような技術が活用されています。
IoTやクラウドを使った調理支援システム
IoT（Internet of Things）とは、さまざまなモノがインターネットにつながってデータをやり取りすることです。クラウドとは、インターネット上にあるサーバーにデータやソフトウェアを保存して利用することです。IoTやクラウドを使った調理支援システムでは、以下のような機能があります。
- 献立提案：冷蔵庫やパントリーにある食材や賞味期限をセンサーやカメラで読み取り、レシピデータベースからおすすめの献立を提案します。また、音声や画像で話しかけると、好みや栄養バランスに合わせたメニューを教えてくれます。
- レシピ検索・ダウンロード：スマートフォンやタブレットなどでレシピを検索したり、オーブンレンジや電気圧力鍋などの調理器具にレシピをダウンロードしたりできます。レシピはジャンルやカロリーなどで絞り込むことができます。
- 調理操作・音声ナビ：調理器具が自動で温度や時間などを設定したり、手順や材料を画面表示や音声発話で案内したりします。また、音声アシスタントと連携して、話しかけた言葉を理解して操作画面を呼び出したりします。
- 買い物リスト作成・食材管理：気になったメニューや食材から買い物リストを作成したり、購入した食材の保存方法や消費期限などを教えてくれたりします。また、食材の在庫状況や消費履歴なども確認できます。
IoTやクラウドを使った調理支援システムの例としては、以下のようなものがあります。
- シャープのCOCORO KITCHEN：冷蔵庫、オーブンレンジ（ヘルシオ）、電気圧力鍋（ホットクック）などのキッチン家電がクラウドの人工知能とつながって提供するサービスです。献立相談やレシピダウンロード、料理キット宅配サービス（ヘルシオデリ）などが利用できます。
- パナソニックのHomeX：冷蔵庫、オーブンレンジ、IHクッキングヒーターなどのキッチン家電がインターネットにつながって提供するサービスです。食材やレシピの提案、調理操作や音声ナビ、買い物リスト作成などが利用できます。また、クックパッドと連携した料理支援システム（OiCy）もあります。
- 日立のコネクテッド家電：冷蔵庫、オーブンレンジ（ヘルシーシェフ）、IHクッキングヒーター（火加減マイスター）などのキッチン家電がインターネットにつながって提供するサービスです。ドアの閉め忘れ監視や運転状況の確認、食材管理やリマインダー通知、レシピからのオートメニュー設定などが利用できます。
3Dプリンターやロボットを使った料理作成
3Dプリンターとは、パソコンなどで作った3次元のデジタルモデルを元に、立体物を作り出す機械です。ロボットとは、人間の動作や判断を模倣したり、自律的に動作したりする機械です。3Dプリンターやロボットを使った料理作成では、以下のような機能があります。
- 食品プリント：食品をペースト状にして3Dプリンターで造形します。繊細なデザインや難しい形のものを作ることができます。また、栄養素やカロリーなどの配合比率を正確に調整することができます。
- 調理ロボット：ロボットアームやコンベアなどで食材を切ったり混ぜたり焼いたりします。人間の手よりも早くて正確に調理することができます。また、レシピや動画などを学習して調理技術を向上させることができます。
3Dプリンターやロボットを使った料理作成の例としては、以下のようなものがあります。
- レダイブフーズのレダイブステーキ：植物由来の原料を3Dプリンターでプリントしてビーフステーキに似せた食品です。肉質や脂肪分布などを再現しています。
- ノバミートのノバサーモン：植物由来の原料を3Dプリンターでプリントしてサーモンに似せた食品です。色や質感などを再現しています。
- モーラ・ロボティクスのMoley：ロボットアームとセンサー付きコンロやオーブンなどで構成された調理ロボットです。人間のシェフの動きを学習して料理を再現します。
③スマートダイエット
ウェアラブルやアプリを使った健康管理システム
ウェアラブルやアプリを使った健康管理システムは、身体の状態や活動量を測定し、食事や運動のアドバイスを行うサービスです。ウェアラブルデバイスは、脈拍や体温、血圧、心拍数などのバイタルデータを計測し、スマートフォンのアプリに転送します。
アプリは、計測されたデータを分析し、目標設定やフィードバック、コーチングなどを行います。また、食事の記録やカロリー計算もできます。ウェアラブルやアプリを使った健康管理システムは、自分の身体に合わせたパーソナライズドな食事や運動の指導ができるというメリットがあります。
事例1：Fitbit
Fitbitは、世界的に有名なウェアラブルデバイスとアプリのブランドです。Fitbitのウェアラブルデバイスは、歩数や消費カロリー、睡眠時間などを計測し、Fitbitのアプリに同期します。Fitbitのアプリは、計測されたデータをグラフ化し、目標達成度や週間レポートなどを表示します。また、食事の記録や水分摂取量の管理もできます。さらに、Fitbit Premiumという有料サービスでは、より詳細な分析やパーソナルコーチング、栄養プランなどが提供されます。Fitbitは、自分の身体と生活習慣に応じた健康管理ができるスマートフードの代表例といえるでしょう。
事例2：Noom
Noomは、ダイエットに特化したアプリです。Noomでは、まずユーザーが自分の年齢や体重、目標体重などを入力し、ダイエットプランを作成します。Noomのアプリは、ユーザーが食べたものを記録し、カロリーや栄養素を計算します。
また、食品に色分けしてグレーディングし（緑色が低カロリーで高栄養価、赤色が高カロリーで低栄養価）、バランスの良い食事を促します。さらに、Noomでは専属のコーチがユーザーにメッセージでダイエットのサポートを行います。Noomは、科学的な栄養学と心理学に基づいたダイエット指導ができるスマートフードの一つです。
ジェノムや腸内細菌を使った栄養指導
ジェノムや腸内細菌を使った栄養指導は、個人の遺伝子や腸内細菌の検査を行い、その結果に基づいて最適な食事やサプリメントを提案するサービスです。ジェノムや腸内細菌は、個人の体質や代謝、健康状態に大きな影響を与えます。
例えば、遺伝子によっては、カフェインやアルコールの分解能力が低かったり、塩分や糖分の摂り過ぎによる高血圧や糖尿病のリスクが高かったりします。また、腸内細菌によっては、消化吸収能力や免疫力が強かったり、肥満やアレルギーのリスクが高かったりします。ジェノムや腸内細菌を使った栄養指導は、これらの個人差を考慮して、最適な食事やサプリメントを提案することで、健康的で効果的なスマートフードを実現します。
事例1：Habit
Habitは、ジェノムと腸内細菌の検査キットとアプリを提供するサービスです。Habitでは、まずユーザーが自宅で唾液や血液、便などのサンプルを採取し、Habitに送ります。Habitは、そのサンプルからユーザーの遺伝子や腸内細菌の分析を行い、その結果に基づいてパーソナライズドな栄養プランを作成します。Habitのアプリは、ユーザーにその栄養プランに沿った食事やサプリメントの提案を行います。また、Habitでは自社で開発したフレッシュな食材やレシピを配送するサービスも行っています。Habitは、ジェノムと腸内細菌の分析によって個人に最適化されたスマートフードを提供するサービスです。
事例2：Viome
Viomeは、腸内細菌の検査キットとアプリを提供するサービスです。Viomeでは、まずユーザーが自宅で便のサンプルを採取し、Viomeに送ります。Viomeは、そのサンプルからユーザーの腸内細菌の種類や量、活動度などを詳細に分析し、その結果に基づいてパーソナライズドな栄養スコアを作成します。
Viomeのアプリは、ユーザーにその栄養スコアに沿った食品やサプリメントの評価や提案を行います。また、Viomeでは自社で開発したプロバイオティクス（善玉菌）やプレバイオティクス（善玉菌のエサ）も販売しています。Viomeは、腸内細菌の分析によって個人に最適化されたスマートフードを提供するサービスです。
3.おわりに
スマートフードは、IT技術やデータ分析を活用して、健康や栄養価を向上させた食品や食事です。スマートフードは、私たちの食生活や健康に大きな影響を与えるだけでなく、社会や環境にも貢献する可能性があります。この記事では、スマートフードの基本的な概念と事例を紹介しました。次回は、スマートフードの今後の展望についてお伝えします。
次回の記事→「スマートフードの今後の展望：技術革新と普及 」
