スマートフードは、IT技術やデータ分析の進歩によって、さらに高度な機能や価値を提供できるようになると考えられます。また、健康志向の高まりや食の多様化の進展によって、スマートフードは今後ますます普及していくと考えられます。今回は、スマートフードが今後どのように進化していくかについてお伝えします。
1.スマートフードの技術革新
ここでは、スマートフードの技術革新について、以下の３つの観点から紹介します。
①個人の体質や好みに合わせてカスタマイズできるようになる
人々はそれぞれ違う体質や好みを持っていますが、一般的な食品はその多様性に対応できていません。そこで、個人に最適な食品を提供するための技術が開発されています。例えば、以下のようなものがあります。
- DNAや血液検査などで個人の遺伝子や体質を分析し、その結果に基づいて栄養素やカロリーを調整した食品をオーダーメイドで作るサービス。これにより、健康状態や目的に応じた最適な食事を摂ることができます。
- AI（人工知能）やIoT（モノのインターネット）を活用して、個人の好みや気分を分析し、その時々に合った食材や献立を提案するサービス。これにより、自分では思いつかなかったり、面倒だったりする食事選びが楽しく簡単になります。
- 3Dプリンターやバイオプリンターを使って、個人の好みやアレルギーなどに合わせて形や味をカスタマイズした食品を作る技術。これにより、従来の食品では実現できなかったり、高価だったりする食品を手軽に楽しむことができます。
これらの技術は、個人の満足度や健康度を高めるだけでなく、無駄な食品消費や廃棄を減らすことも期待できます。
②食材の製造や調理の効率化が進む
食品製造業や飲食業は、人手不足やコスト削減などの課題に直面しています。そこで、生産性や品質を向上させるための技術が導入されています。例えば、以下のようなものがあります。
- ロボットやAIを使って、食材の収穫や加工、調理などを自動化する技術。これにより、人間の労力や時間を節約し、安定した品質や衛生管理を実現できます。
- IoTやブロックチェーンを使って、食材の産地や流通履歴などを追跡・管理する技術。これにより、食品の安全性や鮮度を確保し、消費者の信頼や満足度を高めることができます。
- AIやビッグデータを使って、需要や在庫などの情報を分析し、最適な生産量や価格設定などを決める技術。これにより、食品ロスや在庫過剰などの問題を解決し、利益率や競争力を向上させることができます。
これらの技術は、食品産業の経営効率や収益性を高めるだけでなく、環境負荷や資源消費を減らすことも期待できます。
③食料問題の解決にさらに貢献できるようになる
世界では、人口増加や気候変動などにより、食料不足や栄養不良などの問題が深刻化しています。そこで、新たな食料源や栄養源を開発するための技術が注目されています。例えば、以下のようなものがあります。
- 植物性タンパク質や細胞培養などの技術を使って、動物性タンパク質と同等かそれ以上の栄養価や食感を持つ代替肉を作る技術 。これにより、動物の飼育に伴う環境破壊や動物福祉の問題を解決し、肉食文化を維持しながら持続可能な食料供給を実現できます。
- 昆虫や海藻などの新たな食材を利用する技術 。これにより、従来の食材ではカバーできない栄養素や機能性成分を摂取できるだけでなく、土地や水などの資源効率も高めることができます。
- 遺伝子組み換えやCRISPR/Cas9などの技術を使って、作物の耐性や収量、栄養価などを改良する技術 。これにより、気候変動や害虫などに強い作物を育てたり、ビタミンA欠乏症などの栄養不良を防いだりすることができます。
これらの技術は、世界の飢餓や貧困、健康問題を解決するだけでなく、生物多様性や気候変動への対策にも貢献できます。
2.スマートフードの普及
ここでは、スマートフードが家庭や外食で当たり前になる理由や、日常生活に欠かせない存在になるメリットや課題、食料問題の解決に大きく貢献する方法などについて解説します。
①家庭や外食でスマートフードが当たり前になる
スマートフードが家庭や外食で当たり前になる背景には、以下のような要因があります。
- 新型コロナウイルスの影響で、自宅での食事やテイクアウト・デリバリーの需要が高まったこと。これに伴い、手軽で栄養バランスの良い食品や、オンラインで注文できるサービスが求められるようになりました。
- 食料自給率の低さや気候変動の影響で、国内外の食料供給が不安定になる可能性があること。これに対応するためには、限られた資源で効率的に食料を生産・流通・消費する技術が必要です。
- 健康意識の高まりや個人化・多様化するニーズに応えるためには、食品の品質や安全性だけでなく、倫理性や持続可能性も重視されるようになりました。これらの価値を提供することができるスマートフードは、消費者の選択肢として魅力的です。
②スマートフードが日常生活に欠かせない存在になる
スマートフードが日常生活に欠かせない存在になるメリットは以下のようなものがあります。
- 食料生産から消費までのプロセスを最適化し、資源の有効活用やランニングコストの低減、環境負荷の低減を実現することができます 。例えば、培養肉は動物を飼育するよりも水や土地の消費量が少なく、温室効果ガスの排出量も低減できます。垂直農法は限られたスペースで高い面積効率を実現し、農薬や化学肥料の使用量も減らせます。
- 食品の品質や安全性を向上させ、健康に良い食事を提供することができます 。例えば、ゲノム編集食品は、病気に強い作物や栄養価の高い食品を開発できます。AIレシピアプリは、個人の好みや栄養状態に合わせた献立やレシピを提案できます。
- 食の体験や楽しみを拡張し、新しい価値を創造することができます 。例えば、細胞農業は、絶滅危惧種や高級食材などの希少な食材を培養することが可能です。ガストロフィジクス（食の物理学）は、視覚や聴覚などの感覚を刺激して味覚を変化させることができます。
スマートフードが日常生活に欠かせない存在になる課題は以下のようなものがあります。
- 先端技術のイニシャルコストが高く、価格競争力に欠けること 。例えば、培養肉は現在まだ一般的な動物性肉よりも高価であり、大量生産するためにはコスト削減が必要です。
- 消費者の先端技術への抵抗感や不安が強いこと 。例えば、ゲノム編集食品は安全性や倫理性に関する懸念があり、消費者の受け入れが低い場合があります。
- 先端技術の市場展開に必要なルールや制度がまだ整備されていないこと 。例えば、細胞農業は食品として扱われるかどうかや、表示方法や安全性評価などに関する法的な基準がまだ確立されていません。
③スマートフードが食料問題の解決に大きく貢献する
スマートフードが食料問題の解決に大きく貢献する方法は以下のようなものがあります。
- 食料生産から消費までのプロセスを最適化し、食料ロスや廃棄を削減すること 。例えば、AIやIoT（モノのインターネット）を活用して作物の成長状況や需要予測を管理し、収穫時期や出荷量を調整することで、過剰生産や在庫過多を防ぐことができます 。また、ブロックチェーンやRFID（無線周波数識別）などを使って、食材の流通履歴や品質情報を可視化し、消費期限切れや腐敗などのリスクを低減することができます 。さらに、AIや画像認識などを使って、食品の鮮度や状態を判定し、最適な価格設定や割引率などを決めることで、消費者の購買意欲を高めることができます 。
- 新たな食料源や栄養源を開発し、食料不足や栄養不良に対応すること。例えば、細胞農業やゲノム編集などの技術を使って、動物性タンパク質と同等かそれ以上の栄養価や食感を持つ代替肉を作ることができます 。これにより、肉食に依存する人々にも満足できる食品を提供することができます。また、昆虫や海藻などの新たな食材は、従来の食材ではカバーできない栄養素や機能性成分を豊富に含んでおり 、食料不足や栄養不良に悩む人々にも有効な食品となります。
- 食の教育や普及活動を行い、消費者の意識や行動を変革すること。例えば、VR（バーチャルリアリティ）やAR（拡張現実）などの技術を使って、食料生産の現場や背景を体験させることで 、消費者に食べ物への感謝や理解を深めることができます。また、SNS（ソーシャルネットワーキングサービス）やゲームなどのメディアを使って 、消費者にスマートフードの魅力や利点を伝えることで、消費者の興味や関心を高めることができます。
3.スマートフードの課題と対策
食の生産から消費までの流れをデータで管理し、最適化することを目指すスマートフードは、現代社会における重要なイノベーションの一つです。しかし、スマートフードを実現するためには、さまざまな課題や対策が必要です。ここでは、スマートフードチェーンプラットフォーム、食の生産から消費までのデータ連携プラットフォーム、トレーサビリティや付加価値の向上を目指す方法について、分かりやすく詳しく解説します。
①スマートフードチェーンプラットフォーム
スマートフードチェーンプラットフォームとは、食品流通におけるさまざまなステークホルダーが、データによって連携できる情報プラットフォームです。このプラットフォームとして利用するために必要なデータベースの構築やAPI、データ登録機能、認証機能、ユーザー向けダッシュボードなどの開発などを行っています。
スマートフードチェーンプラットフォームの目的は、循環経済化を目指し、食の生産、加工、流通、販売、消費、資源循環、育種/品種改良に到るまで、データ連携を可能とすることで新たな価値を生み出すことです。このプラットフォームの名称は、「ukabis」という造語であり、「陸の恵みである五穀豊穣の神様・宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)と、海の恵みである豊漁の神様・恵比寿天にあやかった」という意味が込められています。ロゴはキツネとタイをモチーフにしており、「新しいステージをイメージしています」。
スマートフードチェーンプラットフォームは戦略的イノベーション創造プログラム (SIP) 第2期 の一環として開発されており、「スマートフードチェーンコンソーシアム」という組織が運営しています。このコンソーシアムは、「農林水産省・経済産業省・内閣府・国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構（NARO）・国立大学法人慶應義塾・株式会社日立製作所・株式会社日本電気・株式会社日本IBM・株式会社NTTデータ・株式会社富士通・株式会社三菱電機・株式会社三菱UFJ銀行・株式会社三井住友銀行・株式会社東京海上日動火災保険」などからなるメンバーで構成されています。
スマートフードチェーンプラットフォームの課題としては、以下のようなものが挙げられます。
- データの標準化や共有のルール作りが必要
- データのセキュリティやプライバシーの確保が必要
- データの品質や信頼性の担保が必要
- データの活用による付加価値や利益の分配が必要
スマートフードチェーンプラットフォームの対策としては、以下のようなものが考えられます。
- データ連携に関するガイドラインや仕様書を策定する
- データを暗号化したり、ブロックチェーン技術を利用したりする
- データの品質管理や検証を行う
- データの活用による価値創造や利益還元の仕組みを構築する
②食の生産から消費までのデータ連携プラットフォーム
食の生産から消費までのデータ連携プラットフォームとは、スマートフードチェーンプラットフォーム「ukabis」が提供するサービスの一つです。このプラットフォームは、食の生産、加工、流通、販売、消費、資源循環、育種/品種改良におけるデータ共有を可能とする情報連携基盤です。
食の生産から消費までのデータ連携プラットフォームは、以下のような特徴を持っています。
- 生産者や消費者など、食に関わるすべての人が参加できる
- 食品ロスや食中毒など、食に関する社会課題に対応できる
- 食品安全や品質管理など、食に関する情報を可視化できる
- 需要と供給のマッチングや物流最適化など、食に関するビジネスを支援できる
食の生産から消費までのデータ連携プラットフォームは、以下のような仕組みで動作します。
- 生産者や加工者などは、自分たちが持つデータを「ukabis」に登録する
- 流通者や販売者などは、「ukabis」から必要なデータを取得する
- 消費者や資源循環者などは、「ukabis」で商品やサービスを選択する
- 育種者や品種改良者などは、「ukabis」で得られたデータを分析する
食の生産から消費までのデータ連携プラットフォームは、以下のようなメリットを提供します。
- 生産者は自分たちが作った商品に対する付加価値を高めることができる
- 加工者は自分たちが提供する商品に対する差別化を図ることができる
- 流通者は自分たちが扱う商品に対する在庫管理や物流コストを削減することができる
- 販売者は自分たちが売る商品に対する顧客満足度を向上させることができる
- 消費者は自分たちが買う商品に対する安心感や信頼感を高めることができる
- 資源循環者は自分たちが回収する商品に対する再利用やリサイクルの効率化を図ることができる
- 育種者や品種改良者は自分たちが開発する商品に対するニーズや嗜好を把握することができる
食の生産から消費までのデータ連携プラットフォームは、以下のような課題にも取り組んでいます。
- データの品質や信頼性を担保するための検証や評価の仕組みの構築
- データの活用による付加価値や利益の分配や還元の仕組みの構築
- データのセキュリティやプライバシーの確保や管理の仕組みの構築
- データの標準化や共有のルール作りやガイドラインの策定
③トレーサビリティや付加価値の向上を目指す
トレーサビリティとは、食品の産地や流通履歴などを追跡・管理することです。トレーサビリティを向上させることで、食品の安全性や品質、鮮度などを確保し、消費者の信頼や満足度を高めることができます。また、トレーサビリティを活用することで、食品に付加価値を与えることもできます。例えば、以下のようなものがあります。
- 生産者や加工者などが自分たちが作った商品に対するストーリーや情報を伝えることで、消費者に感情的な価値や認知的な価値を提供する。例えば、商品にQRコードやNFCタグなどを付けて、スマートフォンで読み取ると、商品に関する動画や写真、コメントなどが表示されるようにする 。
- 消費者や流通者などが自分たちが買った商品に対するフィードバックや評価を伝えることで、生産者や加工者などに改善点やニーズを提供する。例えば、商品にQRコードやNFCタグなどを付けて、スマートフォンで読み取ると、商品に関するアンケートやレビューなどが表示されるようにする 。
トレーサビリティや付加価値の向上を目指す方法としては、以下のようなものが考えられます。
- ブロックチェーン技術を利用して、食品の流通履歴や情報を暗号化し、改ざん防止や透明性確保を行う 。
- IoT（モノのインターネット）技術を利用して、食品の温度や湿度などの状態をリアルタイムで監視し、品質管理や鮮度保持を行う 。
- AI（人工知能）技術を利用して、食品の画像や音声などのデータを分析し、品質判定や鮮度判定を行う 。
おわりに
スマートフードは、今後、技術革新と普及が進むことで、私たちの食生活は大きく変化していくでしょう。しかし、スマートフードにも課題や対策があります。この記事では、スマートフードの今後の展望と課題と対策を紹介しました。スマートフードは、私たちの食生活だけでなく、社会や環境にも大きな影響を与える可能性があります。スマートフードに関心がある方は、ぜひこの記事で紹介した内容を参考にしてみてください。
