ペットは私たちの家族の一員として、日々の生活に喜びや癒しを与えてくれます。
しかし、ペットも人間と同様にがんにかかる可能性があります。
ペットのがんは近年増加傾向にあり、ペットの死因の約半数を占めています。
ペットのがんは種類や進行度によっては治療が可能であり、予後も改善されることがあります。
しかし、早期発見や予防が重要です。
この記事では、ペットのがんについて詳しく解説し、飼い主の皆さんに役立つ情報をお届けします。
1.ペットのがんの原因
ペットのがんとは、ペットの体を構成する細胞が正常に増殖や分化を制御できなくなり、異常に増えてしまう病気です。
ペットのがんは、人間と同じようにさまざまな要因によって発生すると考えられています。
ここでは、主な要因として、遺伝的要因、環境的要因、生活スタイルとの関連性について紹介します。
①遺伝的要因
遺伝的要因としては、ペットの種類や品種、年齢、性別などががんの発生に影響することが知られています。
例えば、犬ではゴールデン・レトリバーやラブラドール・レトリーバーなどの大型犬や中型犬ががんにかかりやすいとされています。
また、特定の品種では特定のがんが多く見られることもあります。
猫では、猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスに感染した猫がリンパ腫や白血病などのがんにかかりやすいとされています。
これらの要因は、ペットの遺伝子に変異を引き起こし、細胞分裂の異常を招くことでがんを発生させる可能性があります。
②環境的要因
環境的要因としては、紫外線や放射線、化学物質、ウイルスなどががんの発生に影響することが報告されています。
これらの要因は、ペットの体内で活性酸素を発生させたり、DNAを損傷したりすることでがんを引き起こす可能性があります。
例えば、紫外線は皮膚がんや眼球腫瘍の原因になることが知られています。
放射線は骨肉腫や甲状腺腫瘍の原因になることが知られています。化学物質は食品添加物や農薬、殺虫剤、タバコなどに含まれるもので、肺がんや膀胱がんなどの原因になることが知られています。
ウイルスは前述したようにリンパ腫や白血病などの原因になることが知られています。
③生活スタイルの関連性
生活スタイルとの関連性としては、ペットの食事や運動量、去勢や避妊手術などががんの発生に影響することが報告されています。
これらの要因は、ペットの体重やホルモンバランスを変化させることでがんを引き起こす可能性があります。
例えば、食事はペットの健康を左右する重要な要素です。
栄養バランスの悪い食事や過剰摂取は肥満や代謝異常を引き起こし、がんのリスクを高めることがあります12。運動量はペットの体重や免疫力に影響します。
運動不足は肥満や免疫力の低下を招き、がんのリスクを高めることがあります。
去勢や避妊手術はペットのホルモンバランスを変化させます。
一般に、去勢や避妊手術は乳腺腫瘍や前立腺がんなどのホルモン依存性のがんのリスクを低下させるとされています。
しかし、一部のがんでは逆にリスクを高める可能性もあります。
2.ペットのがんの種類と症状
ペットにはさまざまな種類のがんがありますが、ここではペットに多いとされる4つのがんを紹介します。
それぞれのがんの特徴や症状、診断方法について詳しく見ていきましょう。
①皮膚がん
皮膚がんとは、皮膚の細胞が異常に増殖してできるがんです。
ペットのがんの中でも最も多く見られると言われています。
皮膚がんの症状は、皮膚にできたしこりやほくろ、傷やかさぶたなどです。
しこりは硬くて毛が抜けたり、色が黒っぽかったりします。傷やかさぶたはなかなか治らなかったり、出血したりします。
皮膚がんの診断方法は、触診や画像検査で皮膚の異常を確認した後、生検や細胞診で細胞の型を調べることです。
②乳腺がん
乳腺がんとは、乳腺組織の細胞が異常に増殖してできるがんです。
メス犬やメス猫に多く見られます。
乳腺がんの症状は、乳房にできたしこりや腫れ、出血や分泌物などです。
しこりは硬くて動かなかったり、皮膚が赤くなったりします。
出血や分泌物は乳頭から出たりします。
乳腺がんの診断方法は、触診や画像検査で乳房の異常を確認した後、生検や細胞診で細胞の型を調べることです。
③リンパ腫
リンパ腫とは、リンパ系組織の細胞が異常に増殖してできるがんです。
リンパ系組織とは、リンパ節や扁桃など免疫系に関係する組織です 。
リンパ腫の症状は、リンパ節の腫れや発熱、食欲不振や体重減少などです。リンパ節の腫れは首や脇の下、足の付け根などに見られます。発熱は38度以上になったりします 。
リンパ腫の診断方法は、触診や画像検査でリンパ節の異常を確認した後、生検や細胞診で細胞の型を調べることです。
④骨肉腫
骨肉腫とは、骨組織の細胞が異常に増殖してできるがんです。大型犬に多く見られます 。
骨肉腫の症状は、骨の腫れや痛み、骨折やびっこなどです。
骨の腫れは脚や顎などに見られます。痛みは触ったり動かしたりすると強くなったりします。
骨折やびっこは骨が弱くなることで起こったりします。
骨肉腫の診断方法は、触診や画像検査で骨の異常を確認した後、生検や細胞診で細胞の型を調べることです。
ペットのがんの症状は人間とは異なる場合が多いことや、初期段階では自覚症状がないこともあることを知っておきましょう。
ペットは自分の痛みや不快感を言葉で伝えることができませんし、本能的に弱さを見せないようにする傾向があります。
そのため、飼い主さんがペットの体や行動に変化がないか注意深く観察することが大切です。
3.早期発見と予防
ペットのがんは、早期発見・早期治療が重要です。
なぜなら、ペットのがんは初期段階では治療効果が高く予後も良いことが多いからです 。
ペットのがんは進行すると、転移や合併症を引き起こし、治療が困難になったり、命に関わったりすることがあります 。
早期発見することで、ペットの苦痛を軽減し、生存期間を延ばすことができます 。
早期発見するためには、定期的な健康チェックがおすすめです。
健康チェックでは、ペットの体重や体温、血圧などを測定し、異常がないか確認することができます 。
また、触診や血液検査、画像検査などでペットの体内の状態をチェックすることもできます 。
これらの検査によって、目に見えないがんも発見する可能性があります 。
予防策としては、ライフスタイルの改善が大切です。
ペットにバランスの良い食事や適度な運動を与えることで、肥満や代謝異常を防ぎ、免疫力を高めることができます 。
また、紫外線や化学物質から遠ざけることで、DNAの損傷を防ぐことができます 。
さらに、去勢や避妊手術を検討することで、ホルモン依存性のがんのリスクを低下させることができます。
4.ペットのがんの診断と治療
①ペットのがんの診断
ペットのがんの診断に用いられる検査方法は、主に以下のようなものがあります。
- 血液検査
- 血液検査とは、ペットの血液を採取して、その成分や数値を調べる検査です。血液検査には、血球数や生化学検査などがあります。
- 血液検査のメリットは、比較的安価で簡単に行えることや、ペットの全身の健康状態を把握できることです。血液検査では、貧血や炎症反応、肝臓や腎臓などの臓器の機能や、がんマーカーと呼ばれるがんの存在を示す物質などを測定できます。
- 血液検査のデメリットは、がんの種類や部位を特定できないことや、正確な診断には他の検査と併用する必要があることです。血液検査では、がんの有無や進行度を推測することはできますが、確定診断には不十分です。
- 細胞診
- 細胞診とは、ペットの体から細胞を採取して、その形や性質を顕微鏡で観察する検査です。細胞診には、針吸引法やスミア法などがあります。
- 細胞診のメリットは、比較的安価で簡単に行えることや、がん細胞の型を判断できることです。細胞診では、がん細胞の形や大きさ、核の数や形などを見て、良性か悪性か、どのような種類のがんかを判別できます。
- 細胞診のデメリットは、採取した細胞が少ない場合や代表的でない場合に誤診する可能性があることや、組織の構造や浸潤性を評価できないことです。細胞診では、細胞単位でしか観察できませんので、組織全体の状態や周囲への影響を把握することはできません。
- 組織診
- 組織診とは、ペットの体から組織を採取して、その形や性質を顕微鏡で観察する検査です。組織診には、生検法や手術時に摘出した組織を用いる方法などがあります。
- 組織診のメリットは、最も確実な診断方法であることや、組織の構造や浸潤性を評価できることです。組織診では、細胞だけでなく組織全体を見ることができますので、がん細胞の型だけでなく、増殖度や分化度なども判断できます。また、周囲の正常組織との関係や、血管やリンパ管への侵入なども観察できます。
- 組織診のデメリットは、比較的高価で時間がかかることや、全身麻酔や手術が必要な場合があることです。組織診では、細胞診よりも多くの組織を採取する必要がありますので、ペットに負担がかかる場合があります。また、採取した組織を特殊な処理をして染色する必要がありますので、結果が出るまでに時間がかかる場合があります。
- X線検査
- X線検査とは、ペットの体にX線を当てて、その透過度によって影像を作り出す検査です。X線検査には、単純撮影法や造影法などがあります。
- X線検査のメリットは、比較的安価で簡単に行えることや、骨や胸部などの内部構造を観察できることです。X線検査では、骨や肺などの密度の高い部分は白く、空気や脂肪などの密度の低い部分は黒く映ります。そのため、骨折や骨肉腫などの骨の異常や、肺水腫や肺腫瘍などの肺の異常を見つけることができます。
- X線検査のデメリットは、密度の似た部分は区別しにくいことや、二次元的な影像しか得られないことです。X線検査では、筋肉や臓器などの密度の似た部分は灰色に映りますので、詳細な形や大きさを判断することは難しい場合があります。また、X線検査では、ペットの体を一枚の平面に写すだけですので、立体的な情報を得ることはできません。
- 超音波検査
- 超音波検査とは、ペットの体に超音波を当てて、その反射波によって影像を作り出す検査です。超音波検査には、Bモード法やドプラ法などがあります。
- 超音波検査のメリットは、比較的安価で簡単に行えることや、臓器や血管などの内部構造を観察できることです。超音波検査では、臓器や血管などの密度の高い部分は白く、空気や脂肪などの密度の低い部分は黒く映ります。そのため、腹部や心臓などの臓器の形や大きさや動きを見ることができます。また、ドプラ法では血流の速度や方向も測定できます。
- 超音波検査のデメリットは、毛や皮下脂肪が多い場合や空気が多い場合に超音波が反射しにくいことや、二次元的な影像しか得られないことです。超音波検査では、毛や皮下脂肪が多い場合や空気が多い場合に超音波が反射しにくいことがありますので、画像が鮮明にならない場合があります。また、超音波検査では、ペットの体を一枚の平面に写すだけですので、立体的な情報を得ることはできません。
- MRI検査
- MRI検査とは、ペットの体に強力な磁気をかけて、その反応によって影像を作り出す検査です。MRI検査には、T1強調像やT2強調像などがあります。
- MRI検査のメリットは、骨以外の組織や臓器の内部構造を高精細で立体的に観察できることです。MRI検査では、水分や脂肪などの密度の違いによって組織や臓器の信号強度が変化します。そのため、脳や脊髄などの神経系組織や、腫瘍や出血などの病変を見つけることができます。
- MRI検査のデメリットは、非常に高価で時間がかかることや、全身麻酔が必要な場合があることです。MRI検査では、強力な磁気を使いますので、金属製品やペースメーカーなどの影響を受けるものは持ち込めません。また、MRI検査では、ペットが動かないようにする必要がありますので、全身麻酔を施す場合があります。
- PET検査
- PET検査とは、ペットの体に放射性物質を注入して、その分布によって影像を作り出す検査です。PET検査には、FDG-PET法やFLT-PET法などがあります。
- PET検査のメリットは、ペットの体内で起こっている生化学的な反応を観察できることです。PET検査では、放射性物質と結合した物質(トレーサー)を注入します。トレーサーは血液中を流れて各臓器に運ばれますが、活動量の高い部分(例えばがん細胞)ではより多く取り込まれます。そのため、トレーサーの分布を測定することで、がん細胞の位置や活動度を見ることができます。
- PET検査のデメリットは、非常に高価で時間がかかることや、全身麻酔が必要な場合があることです。PET検査では、放射性物質を使いますので、安全管理や廃棄処理に注意する必要があります。また、PET検査では、ペットが動かないようにする必要がありますので、全身麻酔を施す場合があります。
②ペットのがんの治療法
ペットのがんの治療法は、主に以下のようなものがあります。
- 手術
- 手術とは、ペットの体からがん組織を切除する治療法です。手術には、根治的手術や姑息的手術などがあります。
- 手術のメリットは、がん組織を直接除去できることや、一回の治療で効果が現れることです。手術では、がん組織だけでなく周囲の正常組織やリンパ節なども切除することで、がんの再発や転移を防ぐことができます。また、手術では、一度に大量のがん細胞を除去できますので、治療効果が高い場合があります。
- 手術のデメリットは、高価で時間がかかることや、全身麻酔や出血などのリスクがあることです。手術では、ペットに負担がかかりますので、ペットの体力や健康状態を考慮する必要があります。また、手術では、傷跡や障害などの後遺症が残る可能性があります。
- 放射線治療
- 放射線治療とは、ペットの体に放射線を当てて、がん細胞を殺す治療法です。放射線治療には、外部放射線治療や内部放射線治療などがあります。
- 放射線治療のメリットは、手術不能な場合や手術後に残ったがん細胞に対して有効であることや、局所的に治療できることです。放射線治療では、放射線を高精度に誘導して、がん細胞にダメージを与えます。そのため、手術で切除できない深部や重要な臓器にあるがんに対しても治療できます。また、放射線治療では、正常組織への影響を最小限に抑えることができます。
- 放射線治療のデメリットは、高価で時間がかかることや、全身麻酔や脱毛などの副作用があることです。放射線治療では、ペットに負担がかかりますので、ペットの体力や健康状態を考慮する必要があります。また、放射線治療では、正常組織への影響も起こる可能性があります。
おわりに
この記事では、ペットのがんについて詳しく解説しました。
ペットのがんは怖い病気ですが、早期発見や予防が重要です。
適切な診断と治療によって、ペットの生活の質を高めることができます。
ペットの健康管理や愛情表現は飼い主さんにとってもペットにとっても大切なことです。
ペットの体や行動に異変を感じたら、すぐに動物病院に相談しましょう。