近年、日本全国で書店減少が深刻な問題となっています。
過去20年間で書店数は半分以下に減少し、書店が存在しない自治体も増加しています。
この問題は、出版業界や地域経済に影響を及ぼし、読者の新たな本に触れる機会も制限されています。
この記事では、書店減少の原因や、書店が生き残るための取り組みを解説します。
1. 書店減少の現状
①日本全国で書店が減少している状況
日本全国で書店の数が減少している現象は、単なる偶然ではありません。
経済産業省のデータによれば、2004年度には約2万店あった書店が、2023年度には約1万1000店にまで減少しています。この減少の背景には、インターネットの普及や電子書籍の台頭が大きく影響しています。
インターネットの普及により、消費者はオンラインで簡単に書籍を購入できるようになりました。これにより、実店舗での書籍購入が減少し、書店の経営が厳しくなっています。
また、電子書籍の普及も書店減少の一因です。特に若年層を中心に、スマートフォンやタブレットで手軽に読書を楽しむ人が増えています。
②特に地方での書店減少が顕著
地方における書店減少は、都市部以上に深刻です。日本出版インフラセンターの調査によると、全国の市区町村のうち、約27.7%が「無書店自治体」となっており、書店が一軒も存在しない状況です。
さらに、1書店以下の自治体の割合は47.4%に達しており、地方の書店減少が顕著であることがわかります。
地方での書店減少の背景には、人口減少や高齢化が大きく影響しています。人口が減少することで、書店の利用者も減少し、経営が成り立たなくなるケースが増えています。
また、高齢化により、書店を利用する高齢者が減少し、若年層の利用も都市部に比べて少ないため、書店の存続が難しくなっています。
2. 書店減少の主な原因
①オンライン書店と電子書籍の普及
インターネットの普及とともに、オンライン書店や電子書籍の市場が急速に拡大しています。
2023年度の電子書籍市場規模は6449億円に達し、2028年度には8000億円に成長すると予測されています。このようなデジタル化の進展により、消費者は自宅にいながら簡単に書籍を購入できるようになりました。
オンライン書店の利便性は、特に忙しい現代人にとって大きな魅力です。24時間いつでも購入でき、配送も迅速です。
また、電子書籍はスマートフォンやタブレットで手軽に読めるため、若年層を中心に人気が高まっています。これにより、実店舗での書籍購入が減少し、書店の経営が厳しくなっています。
②出版物の売上減少と粗利の低下
書店減少のもう一つの大きな要因は、出版物の売上減少と粗利の低下です。
2023年の紙の出版物の売上は前年比6.0%減の1兆612億円であり、書籍は4.7%減、雑誌は7.9%減となっています。このような売上減少は、書店の経営に直接的な打撃を与えています。
さらに、日本の書店は欧米と異なり、雑誌の販売に大きく依存してきました。
しかし、雑誌の売上も減少しており、書店の収益構造が崩れています。このような状況では、書店が経営を維持するのは非常に困難です。
③人口減少と少子化による影響
日本の人口減少と少子化も、書店減少の重要な要因です。
日本の総人口は2010年にピークを迎え、その後減少を続けています。2024年の出生数は70万人を切る可能性があり、少子化が急速に進行しています。このような人口動態の変化は、書店の顧客基盤を縮小させています。
特に地方では、人口減少と高齢化が進行しており、書店の利用者が減少しています。
若年層が都市部に流出することで、地方の書店はさらに厳しい状況に置かれています。これにより、地方の書店は次々と閉店を余儀なくされています。
3. 書店減少が社会に与える影響
①新たな本に遭遇することの減少
書店が減少することで、新たな本に偶然出会う機会が減少しています。
書店は、読者が普段手に取らないような本と出会う場として重要な役割を果たしてきました。
特に、書店の棚に並ぶ多様なジャンルの本は、読者の興味を広げ、新たな知識や視点を提供してきました。
オンライン書店では、アルゴリズムによっておすすめされる本が限られており、読者が自分の興味の範囲外の本に出会う機会が少なくなります。
これにより、読者の読書体験が狭まり、多様な思考に触れる機会が減少しています。
②多様な本に触れ合うことの減少
書店の減少は、多様な本に触れる機会の減少にもつながります。
書店では、ベストセラーだけでなく、ニッチなジャンルや新進作家の作品も取り扱われており、読者はさまざまな選択肢から本を選ぶことができました。
しかし、書店が減少することで、こうした多様な本に触れる機会が失われつつあります。
特に地方の書店では、地域の文化や歴史に関連する本が多く取り扱われており、地域住民にとって貴重な情報源となっていました。
書店の減少は、こうした地域特有の文化や知識の継承にも影響を与えています。
③地域コミュニティへの影響
書店は単なる本を売る場所ではなく、地域コミュニティの重要な拠点でもあります。
書店は、地域住民が集まり、交流する場としての役割を果たしてきました。書店で開催される読書会やサイン会などのイベントは、地域の文化活動の一環として親しまれてきました。
書店の減少は、こうした地域コミュニティの活動にも影響を与えています。
書店がなくなることで、地域住民が集まる場所が減少し、地域コミュニティの結束が弱まる可能性があります。
また、書店が地域の情報発信拠点としての役割を果たしていたため、地域の文化や歴史に関する情報が伝わりにくくなるという問題もあります。
④若年層の読書離れと教育への影響
書店減少は、若年層の読書離れにも影響を与えています。書店は、子どもたちが本に親しむきっかけとなる場所であり、読書習慣を形成する上で重要な役割を果たしてきました。
しかし、書店が減少することで、子どもたちが本に触れる機会が減少し、読書離れが進んでいます。
読書離れは、教育にも大きな影響を与えます。読書は、言語能力や思考力を育む上で重要な活動です。読書習慣が減少することで、子どもたちの学力低下や思考力の低下が懸念されています。
また、読書を通じて得られる多様な知識や視点が失われることで、子どもたちの創造力や批判的思考力の育成にも影響を与えます。
4. 書店減少に対する政府の支援策
①経済産業省によるプロジェクトチームの設立
経済産業省は、減少が続く書店を支援するために「書店振興プロジェクトチーム」を設立しました。このプロジェクトチームは、書店を地域文化の重要な拠点と位置づけ、その維持と振興を目指しています。
プロジェクトチームは、書店経営者や出版関係者とのヒアリングを通じて、現状の課題を把握し、具体的な支援策を検討しています。
例えば、キャッシュレス決済の推進やデジタル技術の活用を支援することで、書店の経営効率を向上させる取り組みが進められています。
また、読書イベントやカフェギャラリーの運営など、個性的な取り組みを後押しする方策も検討されています。
このような支援策は、書店が単なる本の販売場所ではなく、地域の文化拠点としての役割を果たすために重要です。書店が地域住民の交流の場となり、新たな文化や知識の発信地として機能することが期待されています。
②地域ごとの成功事例の共有と支援
書店減少に対する支援策の一環として、地域ごとの成功事例の共有と支援も重要な取り組みです。
例えば、シェア型書店や無人書店など、新しいビジネスモデルが注目されています。これらの書店は、地域の特性やニーズに合わせた独自の取り組みを行い、成功を収めています。
シェア型書店は、複数のオーナーが本棚を共有し、それぞれが選書や販売を行う形式の書店です。
これにより、個々のオーナーが自分の好きな本を紹介し、地域住民との交流を深めることができます。
例えば、渋谷にある「渋谷〇〇書店」や神保町の「PASSAGE by ALL REVIEWS」は、シェア型書店の成功例として知られています。
また、無人書店も新しい取り組みの一つです。無人書店は、スタッフが常駐せず、利用者が自由に本を選び、セルフレジで購入する形式の書店です。
これにより、運営コストを削減し、書店の存続を図ることができます。
こうした成功事例を共有し、他の地域でも同様の取り組みを支援することで、書店減少の流れを食い止めることが期待されています。
おわりに
書店減少は、地域や文化の多様性にも大きな影響を与える問題です。
しかし、さまざまな工夫や支援策によって、リアル書店が再び地域の文化拠点として活躍する可能性があります。
私たち一人ひとりができることから始め、書店の存続を支えていきましょう。